2018年1月20日土曜日

深海


 1996年発表のミスチルの5thアルバム。

 好き嫌いが分かれると思うが、往年のファンの間ではダークな色彩の強い名盤として知られる。#1 Diveと#2 シーラカンスの重く暗いプログレ・ロックの色が強い冒頭から始まり、去った恋人への哀惜を綴る#3 手紙、シニカルな#4 ありふれたLove Story、在りし日の純情の残光のような#5 mirrorへと続く。創作の遊び心と歓びが発露する#6 making songs、#7 名もなき詩、厭世的な#8 So Let’s Get Truth、#9 臨時ニュース、#10 マシンガンをぶっ放せを経て、喪失と混沌の中で苦しむ#11 ゆりかごの見える丘からと#12 虜、救いを祈る#13 花と続き、最後は死を予感させる#14 深海で終わる。聴きながら書いている今も、完璧な構成だと思う。

 制作していた背景についても少し。1994年のイノセントワールドでMr.Childrenは大ブレイクし、彼らはかつて望んだ栄光の絶頂にいた。ミリオンヒットのCDを連発し、数々の日本記録も樹立。全国のスタジアム級の会場をまわるビッグツアーを行い、連日マスコミに祭り上げられる喧噪の中で、当時20代の中頃を過ぎたばかりの桜井和寿は何を思っただろうか。妻子をもっていた桜井はこの時期にモデルと不倫し、離婚し、やがて1997年の活動休止に至っている。このアルバムは多くの製作陣のスタッフにコントロールされて生み出された創作ではあるが、その随所に、現実に倦み、死に魅せられ、苦しみ毒づく桜井の暗部が宿っている。そして、その生々しいほどのリアリティが暗い輝きとして結晶し、本作の音楽作品としての価値を高めている。

 イノセントな世界から遠く離れて、深い闇の底に沈み込む若き男のメンタリティ。そんなことを考えながら、今改めて聴くと味わい深い。この地点を経て、彼らは後の作品群に辿り着いたのである。
  

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