2015年3月19日木曜日

バガボンド


 久しぶりに通読し直したので感想と考察。

 スラムダンクの作者井上雄彦が書いた宮本武蔵の話である。単行本巻末の解説で作者が書いている通り基本的には娯楽作品で、チャンバラと人間的成長の物語を堪能しつつ、精密さと躍動感が同居した圧倒的な画力を楽しめる。とりわけ人間性が滲み出る表情の書き分けや解剖学的に精確に構築された肉体の描写が秀逸で、作者が身体性を作品のテーマとして据えていることが容易に見て取れる。

 画力・ストーリー・構成いずれも非常に高いクオリティを保っているため作者にとっても心身の負担が大きいようで、Gペンを使わず毛筆で書くようになったり、休載して美術展を開いたりガウディの建築にハマったり、目先を変えてスタンスを調整しながら過酷でストイックな戦いを続けていることが雑誌のインタビューでしばしば語られる。本作は、そんな修練の日々が生んだ作者の人生哲学が登場人物に代弁される話、と言っても差し支えないように思う。沢庵や柳生宗厳や伊藤一刀斎の教えは、基本的には作者自身の悟りである。剣の話をしているようで、剣以外の道にも通ずる求道者の悟りが語られる話なのである。ハイライトは、本気で戦う時こそ力を抜く、天下無双とはただの言葉、正しいかどうかはどうだっていい感じるべきは楽しいかどうか、ぬたーん、あたり。

 筆者個人の思い入れとしては、割と宮本武蔵系の人生を歩んでいる(ような気分で生きている)ため、ミスチルの音楽と同じように、中学生の時に読み始めて青春時代に飽きずに何度も読み返した作品であり、共に人生の課題に迷い悩んだ伴走者のような存在であった。野心を抱き、強さを求め、我執に飲まれ、人に出会い、光明を得る。怖い顔して自分のことばかり考えていた若造が、優しく穏やかな境地に至る。最新刊を読む度、実生活とリンクしてその過程を追体験するような感覚があった。そう考えると同作者のリアルと似たような存在である。

 本稿を書いている2015年3月時点で、物語は終盤に差し掛かっており、どういう風に終わらせるかに注目が集まる。最終巻は43巻、あと3年くらいで終わると予想。スラムダンクのように美しい締め方をして欲しい。
   

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